ラジオ食堂の第281.5回

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■るるさんの書いた謎小説『丸亀製麺の野望』(ウェスト激闘編)

 日の本に生まれたならば、うどんによる天下を統一せねばならぬ。これは出汁を滾らせた「うどん屋」達の激闘を綴る物語である。

 天下布武に最も近いとされるのが、讃岐系の雄たる「丸亀製麺」と「はなまるうどん」であった。正真正銘の讃岐発祥である「はなまるうどん」は讃岐の盟主を自称していたが、天下取りを目指す勢いでは兵庫を発祥とする「丸亀製麺」の後塵を拝していた。いずれも、全国に勢力を広げ、両者は各地で熾烈な戦いを繰り広げ、このままでは、いずれどちらかが全国統一を成し遂げるだろう。
 東海にも個性的な有力勢力が名を挙げていた。きしめんの「住よし」、味噌煮込みうどんの「山本屋」、カレーうどんの「若鯱家」である。しかし、きしめんは意外にも地元の支持が薄く、新幹線名古屋駅ホームを拠点としながらも全国展開には成功していない。「山本屋」は「本店」、「総本家」、「大久手」が跡目争いを繰り広げ全国展開は後手を踏んでいる。「若鯱家」はまだ新興勢力から頭ひとつ抜け出したところである。いずれにしても、全国区を目指すには、それぞれの個性が双刃の剣ともなっていたのである。伊勢うどんに至っては 小勢力が連合することもなく、県外に進出するそぶりもない。
 一方で近畿では力はあるのの小規模の勢力がひしめき合い潰し合い、混乱の中で成長を遂げた大勢力は生まれていない。
 九州に目を転じてみよう。ここでは北九州小倉を拠点とする「資さん」、博多の「ウェスト」と「牧の」である。このうち、「牧の」は出汁とうどん玉を本社工場から毎日配送する平坦の都合上、全国に展開する野心を持つことはない。一方、「資さん」にも「ウェスト」にも、九州統一を優先すれば、その間に讃岐勢が全国の覇者となることは目に見えていた。

 「ウェスト」は焦っていた。時間がない。讃岐勢の拡大を抑えながら、自身の勢力拡大を図らねばならないのだ。中国地方へ展開するためには関門海峡を抑える「資さん」と一戦交えなければならないが、これは共倒れとなる公算が高かい。よしんば、「資さん」を制することができたとしても、その後に讃岐勢と戦える力は残されていないだろう。かと言って、讃岐が位置する四国に侵攻することも難しい。ここは愛媛でジャコ天を信奉する小規模な集団のゲリラ活動を支援するにとどめざるを得ない。さらに、「ウェスト」は近畿の実力者「阪急(若菜)そば」や「南海そば」と秘密裏の同盟に成功し、畿内における讃岐勢の拡大の抑制を目論んだのだった。しかし、自らがここで勢力を伸ばそうとすれば、同盟関係にヒビが入るだろう。それでは「ウェスト」は畿内を飛び越して東海を目指すのか?しかし、ここに割拠する勢力は個性的すぎて戦いづらい。さらに、濃い味を好む原住民を相手に「ウェスト」の主力「ごぼ天うどん」は分が悪い。
 やはり関東に奇襲をかけるしかない!勝算はあるのだ。日本最大の人口を擁する関東では、茹で過ぎたうどん玉に真っ黒な蕎麦の出汁をかけたて「うどん」と称しているらしい。ここに、我らが誇りであるホンモノのうどんを持ち込めばひとたまりもないだろう。唯一懸念されるのは、着々と勢力を伸ばしはじめた埼玉発祥「山田」の存在であったが、生茹での太く硬い北関東のうどんと九州のうどんは別の食い物だ。顎の弱った最近の若者には、「ウェスト」の方が好まれるに違いない。周到な計略をめぐらし、「ウェスト」はついに千葉で拠点構築に成功する。ここからは、じわじわと関東の攻略である。いずれ東国の住民も讃岐うどんばかりでは飽きてくるだろう。その日を待ちながら、今は爪を研ぐのだ。さらに北を眺めれば、秋田の「稲庭うどん」が名を馳せているが、奴らは何かにつけて幕府や皇室への献上品であることを鼻にかける公家集団にすぎない。適当な世辞の一つもカマしてやれば、何もしてこないだろう。
 返す刀で「ウェスト」は南進する。琉球への侵攻である。ここに拠点を持てば、台湾や大陸中国への進出も夢では無い。まだまだ「ウェスト」が暴れるのはこれからだ……と、その時、イキった「ウェスト」の背後を脅かす勢力が忽然と現れた。それは日本三大うどんの一つとされる「五島うどん」だった……。